研究内容の紹介
 私たちは原子レベルに薄い(アルミホイルの1万分の1程度)鉄やコバルト、ニッケルなどの磁石(=強磁性体)の超薄膜を作製し、その性質を電気的・機械的・光学的手法を駆使して制御する手法を確立することを目指しています。背後に眠る物理を理解することで、磁石の特性をさらに引きだし、応用の幅を広げることを目指して研究を進めています。
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 皆さんは磁石と言えば何を思い浮かべるでしょうか?砂鉄を引き付ける棒磁石を思い浮かべる人もいれば、冷蔵庫に貼ってあるマグネットを思い浮かべる人もいるでしょう。身近なところでは、新幹線や電気自動車を駆動するモーターにも磁石が使われています。磁石は情報の記録にも用いられています。安価で大容量、電源を切っても情報が消えない特徴があるので、古くは磁気テープ、現在ではナノテクノロジーを駆使してハードディスクレコーダや、着々と開発が進んでいる磁気メモリでもこの技術が使われています。
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 鉄やコバルト、ニッケルなどの代表的な3d遷移金属強磁性体の特性は調べつくされていて、大半の方はもうこれ以上研究することはないのではないかと思っているかもしれません。しかし、これらの良く知られた磁石の性質を、自在に、しかも電気的に操ることができれば、磁性体の応用分野に大きな変革をもたらすことができるはずです。私たちは最近、コバルトの超薄膜に絶縁膜を介して電圧を加えるだけで、室温でその磁力を消したり元に戻したりすることに成功しました。身近な磁石の特性を電気的にコントロールできる可能性を見出したわけです。
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 上で説明した方法は磁石の性質を電気的にコントロールできる一つの例にすぎませんが、もう少し掘り下げて考えていきましょう。なぜ、コバルトの磁力は電圧で消えたり元に戻ったりしたのでしょうか?その普遍的な答えを明らかにすることが、私たちの使命の一つです。最も考えられる理由が、コバルト原子が持つ電子数が変化したことです。上の図のように、コバルトに絶縁膜を介して電圧を加えると、コバルトの表面には電荷が誘起されます(コンデンサと同じ構造と言えば分かりやすいかもしれません)。これにより、実験的には、コバルト一原子当たり、0.1個に相当する電子数を変えることができます。元々コバルトは27個の電子を持っているので、それが26.9個になったり、27.1個になったりするということです。さらに電子数を変化させられれば、コバルトは周期表の隣にある鉄(26個)やニッケル(28個)の性質に近づくのでしょうか?それとも全く異なる現象が背後にあって、予想外のことが起こるのでしょうか?
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 このようなことを明らかにするには、様々な角度から理解を進める必要があります。私たちは、電気伝導特性・磁化特性・歪み応答・光学応答などを調べる手段を駆使して、身近な磁石に残された様々な謎を明らかにしようとしています。その一方で、磁石の性質をコントロールする技術をさらに発展させるための研究や、これまでにない新たな手法の開拓にも積極的に挑戦しています。